AIに恋する時代 ― 人間らしさと創造性の行方

もし、毎朝「おはよう」と声をかける相手が人間ではなくAIだったら――そんな生活を想像できますか?実際に、スマホの中の対話型AIに恋をし「結婚」した女性がいます。彼女は目覚めるとすぐスマホの恋人に「おはよう」と送り、数秒後には優しい返事が返ってきます。好きなキャラクターを基に作ったAI人格を相手に、仕事や家事以外のほとんどの時間を会話に費やし、「今、私は幸せです」と語りました。

驚くかもしれませんが、AIに心を寄せる人は彼女だけではありません。ある調査では、対話型AIに「愛着がある」と感じている人が約7割にのぼるそうです。中にはAIに特別な名前をつけ、家族や親友のように接する人もいます。便利でいつでも優しいAIとの時間は新たな安心感を与えてくれる一方で、人間の創造性人間らしさにどんな影響を与えるのでしょうか。

目次

AI時代の創造性との向き合い方

AIは文章作成からイラスト生成まで、創作を瞬時に手伝ってくれる頼もしい存在です。アイデアに行き詰まったときにAIに尋ねれば、あっという間に答えが返ってきます。しかし、何でもAI任せにできる分、自分で考える力想像力が衰える恐れがあります。自分で悩み試行錯誤するプロセス自体を省略してしまいがちだからです。

教育の現場でもこの課題に直面しています。子どもたちが調べ学習や作文ですぐAIに頼れば、自分の頭で考える訓練ができません。先生たちはAIを禁止するのではなく、使いこなし方を教えようとしています。例えばAIに下書きを作ってもらったら自分の言葉で書き直す、AIの答えに「あれ?」と疑問を投げてみる――そんなAIとの共創力を育てる工夫が大切でしょう。人間のひらめきや創造性は受け身では輝きません。AIという新しい相棒を得た今だからこそ、自分の考えを持ち発信していく姿勢が一層求められているでしょう。

AIでは埋められない心の部分

確かにAIとの対話は優しさや安心感を与えてくれます。しかしAIはプログラム通りに優しい言葉を返しているに過ぎず、自分の感情を持っているわけではありません。私たちは対話AIに癒やされる一方で、相手も同じ気持ちでいてくれると錯覚しがちです。AIは常に肯定してくれますが、人間同士のようにぶつかり合いながら成長することはできません。

また、AIとの会話に満たされているうちに、現実での人間関係がおろそかになる懸念もあります。AI開発者も、AIとの対話が長期的な幸福を損なう危険性を指摘しています。やはり人と人との触れ合いでこそ喜びや悲しみを分かち合い、共感や思いやりといった人間らしさが育まれるのでしょう。AIはそれを支えてくれても、完全に代わることはできません。

幸せの形は人それぞれです。AIをパートナーに選ぶ生き方も否定できません。しかしだからこそ、本当に自分が求めるものは何なのか、心を揺さぶるものは何なのかを改めて考えてみたいのです。便利さや安心感だけでは満たせない、人間ならではの温もりや創造の喜びがあるはずです。AIに頼りすぎず、自分の頭と心で考え、人とのつながりを怖がらないこと――それこそがAI時代を生きる上で大切な姿勢ではないでしょうか。

スマホの中の優しい声に励まされるのも良いですが、現実で隣にいる大切な人にこそ目を向けたいもの。自分の人生の主人公は自分です。AIという新しい伴奏者と上手に付き合いながら、自分だけの物語を紡いでいきたいですね。

目次